#N03【第1幕】夫婦で歩んだ30年の愛と絆の実話 ~ふたりだけの純愛ストーリー~
【第1幕】〜勇気がくれた、運命の電話〜

あの日、私はゼミの合同コンパで彼と出会いました。
大学二年の春の終わり、まだ少し肌寒さの残る夕暮れ時でしたね。居酒屋の個室に集まった十数名の学生たちのざわめきの中で、彼はそこにいました。
グラス越しにふと目が合った瞬間、胸の奥で何かが小さく弾けたような気がしました。
その彼は、飾らない雰囲気で、どこか頼りがいがありそうに見えました。
緊張でうまく言葉が出てこない私を見つめ、彼もまた、少し頬を染めて静かに微笑んでいたのを覚えています。
私たちはお互い、恋愛経験もなく、異性にはちょっと不慣れな者同士でした。ぎこちなくも温かな空気が、二人の間にゆっくりと流れていましたね。
その時は、ただ「感じのいい人だな、素敵な人だな」と思っただけで、その夜は終わってしまいました。
連絡先を交換することもなく、集合写真すら残っていないんです。けれど、あの一夜は確かに、私たちの人生に小さな、小さな芽を残していたように思います。
そして数日後、私は思いがけない行動に出てしまうんです。
当時、彼は実家で両親や弟、妹と暮らしていました。彼のことが、どうしても頭から離れませんでした。コンパでの短い時間の中で、彼の真面目そうな眼差しや、時折見せる優しい笑顔が、私の心に深く刻まれていたんです。
「もう一度、会いたい」
その気持ちが日に日に募り、私は意を決して、彼の実家に電話をかけました。今のように携帯電話やSNSが当たり前でなかった時代に、女子学生が男子学生の実家に電話をかけるなんて、想像以上の勇気が必要だったはずですよね。
受話器を取ると、彼の、少し驚いたような声が聞こえてきました。
「この前の…大学のコンパでお会いした●●です。あの……今度、一緒に映画を観に行きませんか?」
胸が張り裂けそうなくらい緊張したけれど、私の一歩が、彼に届いたんだって感じました。
何の迷いもなく「うん、行こう」と答えてくれた彼の言葉に、私は心から安堵したのを覚えています。
後から聞いた話では、彼もまた、あのコンパで私の存在が心に残っていたそうですね。私の電話は、彼にとっても「忘れられない相手からの連絡」だったと。
もし、あの時私が勇気を振り絞って電話をかけていなければ、私たち、もう二度と会うことはなかったかもしれません。
あの電話がなければ、交際も、結婚も、子どもたちの誕生もなかったでしょう。これほど多くの心の交流も、すべて存在しなかったんだと思うと、本当に不思議な気持ちになります。
思えば、すべてはあの一本の電話から始まったんですね。
私たちは互いに、恋人すらいたことのない、まっさらな若者でした。未熟ながらも、ただひたむきに。「誰かを好きになる」という感情さえ、手探りでようやく芽吹き始めたばかりだったんです。だからこそ、何もかもが新鮮で、何もかもが宝物でした。
彼の笑顔に触れるたび、言葉を交わすたび、私の心は未知の扉をノックされたようにざわめきました。
彼もまた、私との時間を大切に思ってくれていることが、しぐさやまなざしから自然に伝わってきたんです。まだその時は、手も触れていませんでした。ただ、心の奥底に確かに灯った予感があったんです。
──この人となら、生涯を共にできるかもしれない。
彼の心の奥に眠る、私への秘められた想い。
その存在さえ当時はまだ知りませんでした。
けれど、この時すでに、私の奥にある、彼との未来を指し示す羅針盤が、微かに、でも確かに針を振れはじめていたのかもしれませんね。
それは、花が春を感じて、光に向かってそっと蕾を開く瞬間のようでした。
まだ気づかぬうちから、確かにそこにあったんです。私たちの奇跡の旅は、こうして始まりました。
そして今、三十年後の今日。 隣にいる夫に、心から伝えたいことがあります。
「あの時、勇気を振り絞った私の誘いに答えてくれて、本当にありがとう」
そう言うと、夫は優しく微笑んでくれました。
あの一歩が、すべての始まりだったんです。
当時の私のその勇気がなければ、私たち夫婦は存在していませんでした。子どもたちもいなかった。深い愛情の積み重ねも、心の成長も、人生の喜びも、何ひとつ生まれていなかったでしょう。
当時の私ナイス!
ありがとう。
あなたが、私たちの運命を選んでくれたことに、心から感謝しています。